歳時記

愚妻と協定を結ぶ

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 着物や帯、羽織紐など、和物をネットで少しずつ買いそろえている。
 宅配便で配達されるたびに、
「ちょっと、いくら買えば気がすむのよ!」
 愚妻の目がつり上がるのだ。
 実際、私も何を買ったか忘れている。
 これは性格なのだが、「買った時点」で、その品物は頭から消去されてしまうのだ。
 したがって「所有欲」も希薄。
 若いころは、持ち物をホメられると、ネクタイからライターからカフスからバッグから、何でもかんでもその場でプレゼントしたものだ。
 そういえば何年前だったか、フィジーに愚妻と旅行したとき、レストランで働く地元のアンちゃんが私のTシャツを指さして、
「いいね」
 と(たぶん)ホメてくれたので、私がTシャツを脱いで裸になり、
「やるよ」
 と言って差し出したらビックリしていた。
 アンちゃんが恐縮して受け取ろうとしないので、
「こらッ、一度、脱いだものが着られるか」
 とか何とか言って脅迫すると、愚妻が、
「ちょっと、フィジーまで来てゴネるのはよしなさいよ」
 と止めたものだ。
 そういう性格だから、ネットで気に入った和物のを見つけると、すぐに買ってしまうというわけだ。
 だが、宅配便が来るたびに愚妻に目を吊り上げられるのはかなわない。
 そこで協定を結んだ。
 費用は全額、私が支払うこと。
 着物を畳んだり、半襟を付け替えたりするのは、私が自分でやること。
 何だか屈辱の講和条約のような気がしないでもないが、愚妻の恐い顔を見なくてすむだけ、幸せということか。
 だが、畳むのは大の苦手だし、針仕事など、中学生のときに家庭科で雑巾を縫った経験しかない。
 協定を結んだもののも、どうやって破るか。
 いまそのことに頭をめぐらせているのだ。
  

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