歳時記

油断大敵、腹の石

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 今日は朝から道場の仕事部屋に籠もって仕事をしていた。
 夕刻、尿意をもよおし、トイレに行くと、小便といっしょに結石がポロリと出た。
 ゴマ粒の半分くらいの大きさである。
 これまで何度も自分の結石を見てきているが、こんなケシ粒で七転八倒するなど、考えてみたら人間の身体というのは精密機械のようなものではないか。
 大事に扱わねば。
 結石が出て気をよくした私は、すぐに愚妻に電話をかけた。
「おい、メシを食いにいくぞ。すぐクルマで迎えに来い」
 で、中華料理屋へ出かけ、
「快気祝いだ。老酒を飲め」
 愚妻をねぎらった。
 私はやさしいのだ。
 酒を断っている私は、もちろん呑まない。
「じゃ」
 愚妻がニンマリする。
 現金なものだ。
「で、明日の検査はシカトするかな」
 私がギョーザを食べながら言う。
「なに言ってるのよ」
 愚妻が、キッとなって、
「レントゲンに写っていた石は一つだけじゃなかったでしょ」
 そうか、そうだった、うっかりしていた。
「薬は飲んだの?」
 愚妻が私の顔をのぞきこむ。
「いや」
「水は?」
「いや」
「どうして?」
 険しい顔になっている。
「忙しくて呑むヒマがなかった」
「いくら忙しくたって薬くらい飲めるでしょう。水くらい飲めるでしょう」
「バカ者!」
 このままではヤバイので、私は反攻に転じる。
「コーヒーを淹(い)れる時間はあっても、水を飲む時間はないのだ。なぜなら」
 と言いかけたとき、左脇腹に違和感が生じた。
「どうしたの?」
「何でもない」
「痛くなったんでしょ?」
「解釈はいろいろある」
「ほら、薬を飲まないからよ!」
 勝ち誇ったように言って、老酒をキッュ。
 やっぱり明日は検査に行こう。
 造影剤を打ってレントゲン撮影である。
 油断大敵、腹の石。
 脇腹の鈍痛を顔に出さず、私は冷麺を食べた。

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