歳時記

ノドもと過ぎれば、熱さを忘れよ

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「鼠先輩」が引退した。
「自分は一発屋」だと自覚し、妻子を養うために芸能界を引退して新たな仕事を探すのだという。
 芸能界は楽じゃないのだ。
 私は週刊誌記者時代を含め、多くの芸能人にインタビューしてきた。
 そんななかで、いつも不思議に思うことがあった。
 スターを夢みて努力してきて、いざ人気者になると、
「忙しすぎて、自分の時間がない」
 と、誰もが不満を口にするのだ。
 スターになるということは、忙しくなるということではないか。
 売れっ子として多忙になることを夢みていながら、いざそうなると不満を言う。
 これが私は不思議でならなかった。
 だが、いまは彼らの気持ちがわかる。
 いや、彼らではなく、人間とはそうしたものだということが、何となくわかるのである。
 いまリストラにおびえていても、いざ好景気によって残業に追われるようになったら、不満を口にするだろう。
 ノドもと過ぎれば熱さを忘れるのが、私たち人間なのだ。
 しかし、これを別の視点から見れば、熱さを忘れるから生きていけるのかもしれない。
 羹(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹けば、人間は臆病になる。
 臆病が高じれば、精神を病む。
 だから、ノドもとすぎれば、さっさと熱さを忘れ、ノーテンキに生きていけばいいのだ。
 鼠先輩の引退記事に、ふと、そんなことを思った。

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