歳時記

人生はキリギリスであるべきだ

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《荷おろし症候群》というのがあるのだそうだ。
 難題を乗り越え、目標を達成したと同時に緊張の糸が切れて、無気力状態になるのだという。
 いま、こうしたビジネスマンが増えつつあるというのだから、何とも住みにくい時代ではないか。難題を途中で放り出せば挫折感に襲われ、達成すれば無気力状態になる。
 行くも地獄、退くも地獄、狭間で悩めばウツ病となれば、
「どうせぇちゅんや!」
 と叫びたくもなるだろう。
 だが、このことはビジネスマンに限るまい。
 たとえば、母親。
(この子が一人前になるまでは……)
 と、我が子を一所懸命に育て、成人したと思ったらさっさと親元を離れていく。
 あとに残された母親は、
(何のために育てたのだろう)
 と、《荷おろし症候群》に見舞われる。
 その裏返しとして「子離れできない母親」になってしまうのではないだろうか。
 人生も同じ。
(定年になったら、第二の人生を楽しむぞ)
 と自分に言い聞かせ、必死で働く。
 そして、いざ定年になったら《荷おろし症候群》で、
(こんなはずじゃなかった……)
 だから、私がいつも提言するごとく、「今」が大事なのだ。
 イソップ物語に、周知の『アリとキリギリス』がある。
 アリの人生を是とするのは、「未来永劫、生き続ける」という幻想に立った価値観で、
「定年になったら」
「子供が手を離れたら」
 という、〝根拠のないゴール〟を目指してヒタ走るマラソン人生だ。
 人生が「今」の集合体であるなら、「今」を幸せに生きなくして、どうして人生が幸せになるだろうか。
 人生は、キリギリスであるべきだと思う。

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