歳時記

人生の主役

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「平凡がいちばん」

おふくろの口ぐせである。
いまから42年前、54歳のときにガンで亡くなった。

自信過剰で、大ホラばかり吹く私の将来を危ぶんでのことだろうと、おふくろの懸念がいまはよくわかる。

だが、平凡に生きることの何と難しいことであることか。
この歳になって半生を振り返ればよくわかる。

「事実は小説より奇なり」
という言葉を持ち出すまでもなく、人生は複雑で波乱に富んでいる。

テレビドラマに凡庸なものは多々あれど、人生ドラマにそれはない。
なぜなら人智を超えてストーリーが展開する以上、どれ一つとして「平凡なドラマ」があるはずがないのだ。

もし自分の人生が平凡で退屈なものであるとしたら、それは自分が「人生の主役である」という意識が希薄であるに過ぎない。

もっと言えば、脚本・監督・主役の三役を自分ひとりでこなすのが「人生ドラマ」ということになろうか。

血湧き肉躍る波乱万丈のドラマもいいだろうし、シリアスなものだって、喜劇だっていい。
いや山場もなく、平凡な日常を淡々と描くドラマだって見ごたえのある「作品」に仕上げることはできる。

要は、自分の人生をどんなドラマに仕上げるか。
その自覚と主体性が大事なのだ。

葬儀に出仕し、ご遺族と故人の思い出についてお話をうかがっていて気持ちがなごむのは、
「我がままな人でしたが、悔いなく生きたと思います」
といった一言だ。

「平凡がいちばん」
と言ったおふくろは、当時にしても若死にだった。
口ぐせに反して、平凡ではなかったということになる。
「平凡」ほど難しいものはないのだ。

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