歳時記

映画のロケハン学生

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私の散歩コースは彼岸花が散ってコスモスが風にそよぎ、気持ちのいい季節になった。

私は彼岸花が好きではないのだ。
なぜなら彼岸花には、可憐さもなければ気高さもない。
赤い花の色は、存在感を誇示する濃い口紅のようで好きになれず、彼岸の時期に引っかけて、
「地獄花」
と、私は読んでいる。

それに引き替えコスモスは見ていて気持ちがよく、この時期の散歩の楽しみでもあるのだ。

で、先日。
散歩していたら、自転車を手で押している若者に声をかけられた。

「あのう、このあたりはいつも人が散歩しているんですか?」
「涼しくなったから、夕方のこの時間帯は犬の散歩が多いけど、日中はほとんど人が歩いてないよ」

答えつつ、妙なことを訊くので理由を問うと、
「映画を撮るんです」

ますます妙なことを言うが、何となく気が合う感じで、並んで歩きながら話をすると、家族をテーマにこれから映画制作に入るのだが、少年が田舎道を登校するシーンをどこで撮るかロケハンしていると言う。

以前、別の作品を佐倉市で撮ったことがあり、それでこの地ならどうかと思ってやって来たとか。

だが、自転車に乗って一人でロケハンとは、プロではないだろう。

「学生かい?」
「はい」
「サークルで撮るの?」
「はい」
「どこから来たの?」
「東京です。飯田橋というところがありまして、そこから・・・・」

かつて都内のネオン街に明け方まで浸かっていた私も、若者から見れば、田舎の爺さんなのだろう。
飯田橋と言ってもわかるまいと思ってか、そんな言い方をした。

彼は東大の2年生で、映画制作のサークルをやっているとか。
卒業したら、映画界に進みたいと言っていた。

礼儀をわきまえ、しっかりとした受け答えができる。
なかなか好感が持てた若者だった。

田圃を囲む田舎の散歩道でも、こんな出遇いがあるのだ。

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