歳時記

愚妻の病

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「私、ちっとも病気をしなくなったわねぇ」

過日、愚妻がノンキなことを言った。

若いころ(計算できないくらい昔)、愚妻はよく病気をしていた。
といっても、風邪を引いたとか、胃が痛いとかといった程度で、病気のうちに入るまい。

それが高齢にいたって風邪も引かなくなったと威張っている。
そのぶん私が一手に引き受け、胆囊を除去したり、尿路結石に苦しんだり、風邪をこじらせたり、六月にはコロナにもなった。

癪にさわるので、
「ノンキなこと言ってろよ。そのうち病気になるから」
毒づいたら、ホントに病気になった。

乳がんである。

このブログは愚妻をサカナに書くことが多いので、乳がんになったからといってシカトするのはフェアであるまい。

で、書くことにして、一応、愚妻に了解を求めると、
「どうぞ。どうせ勝手に書くんでしょ」
さすが達観しているのだ。

年内、抗がん剤を四回投与し、年明け手術というスケジュールが先日決まった。

看護師さんの説明が一通り終わったところで、
「日帰り温泉は行っちゃダメですかね」
愚妻が質問すると、
「コロナとか感染が気になりますから、我慢されたらどうですか」

看護師さんがやさしく言ってから、
「まさかマスクして風呂に浸かるわけにはいかないでしょう」

ハハハハと、気持ちを明るくさせようと冗談を言って笑ったが、愚妻がニコリともしないで言う。

「私、湯船でマスクをしてますけど」
「えッ?」

看護師さんが絶句し、笑顔が顔に貼り付いていた。
何となく前途が思いやられるのだ。

抗がん剤は一泊二日なのでいいが、手術となると何泊か家を不在にするだろう。
メシは外食ですませるとしても、困るのは洗濯である。

法務が続くことを想定すれば、衣の下に着る白衣や半襦袢はその都度、帰宅したら洗濯をする必要がある。

入院は来年なのだが、もう私は頭をかかえている。

洗濯の仕方は知っているし、それは私の担当でいまもやっているのだが、それはあくまで洗濯までで、その先はやったことがない。

「おい、脱水はどうするんだ?」
愚妻に問うと、
「全自動だから乾燥まで洗濯機が勝手にやるのよ」
うんざりした顔で言うのだ。

私は愚妻の治療より、ひとりで生活できるか、そっちのほうが心配なのである。

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