歳時記

駆け引き術

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毎週水曜日は、日帰り温泉は行かないことにしている。
連日はさすがに疲れるので、週半ばの水曜と、混み合う土、日は行かない。

しかし、今週の木曜日がメンテナンスで休館になるので、本日は水曜だが予定を変更して行くことにした。

で、家を出るときのこと。

「帰りに銀行の前で落としてくれる?」
愚妻がクルマのなかで言う。

「落とせばいいんだな」
念を押すと、
「どうしてそういう言い方をするのよ。〝じゃ、待っててやる〟と言えないの」
強硬なクレームをつけてきた。

「ならば、待っててくれと、素直に言えばいいではないか」
「言わなくても、フツーはそう言うでしょう」
日帰り温泉に着くまでの5分間、論戦になったである。

愚妻の魂胆はわかっている。
「待っててやろうか」
という言葉を私から引き出し、「あなたが自発的に待った」という形にもっていこうとしたのだ。

「遅いじゃないか!」
もし、手続きに手間取って私が怒れば、
「あなたが〝待つ〟と言ったんでしょ。私が頼んだわけじゃないわ」
居直ることができるという次第。

この手法は、駆け引き術の基本で、たとえば、
「ノドが渇いたわね」
と愚妻が言う。

狙いは、
「ビールでも呑んだらどうだ」
という言葉を引き出すことで、「私は呑みたくなかったのに、あなたが呑めと言ったから」という形にもっていくのだ。

だが、私には通じない。
私はそういうハウツーを本に書いているのだ。

「ノドが渇いたわね」
「そりゃ、困ったな」
突き放して言質を与えない。

したがって、
「帰りに銀行の前で落としてくれる?」
「落とせばいいんだな」
という受け答えになるのだ。

この深い駆け引き術について、愚妻は無自覚である。
だから、ブーブー文句を言うのだ。

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