歳時記

外出の仕度

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 私は、デスクトップのキー・ボードが好きだ。
 ストロークが深いので、指に負担がかからない。
 ノートパソコンはストロークが浅いので、ガツンと底を打っているような感じで、指が痛くなる。
 忙しいときは、仮眠の都合もあって、自宅でも仕事をするのだが、自宅はノートパソコンなので、指が腫れて太くなっている。
 以前はディスクトップを置いていたのだが、邪魔になると思い、ノートバソに切り替えたのがまずかったようだ。
 何事も、一長一短であるということが、よくわかるのである。
 今日は、葬儀に参列した。
 愚妻は昨夜、所用があって泊まりがけで出かけたのだが、私ひとりでは外出の仕度ができない。
 黒いスーツはどこにあるのか、黒いネクタイは、カフスは、ベルトは、靴下は、ハンカチは、香典は・・・。
 これらすべてを、愚妻に用意させておく。
「いいか、ベルト一つ用意し忘れても、外出はできなくなる。心して準備いたせ」
「わかってますよ」
 と不機嫌に答えるが、長年にわたる私の薫陶もあって、さすがに用意は万端である。
 朝、階下に下りていくと、手袋も、マフラーも、ネクタイも、好きなほうをしていけるよう二種類用意してあった。
 風呂も、お湯が替えてある。
 私がタバコを吸っていた30余年前、
「タバコと言ったら、灰皿も一緒に出すものだ」
 と、そんな初歩的なことから、今日まで愚妻を鍛え上げたのだ。
 思えば私も苦労したものだと、朝風呂に浸かりながら感慨にふけったのだった。

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