歳時記

袴(はかま)とアクシデント

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 習うより馴れろ。
 何事においてもそうだ。
 だから私は着物に袴(はかま)をつけて、道場の仕事部へ出かけるのだが、愚妻はこれが気に入らない。
「ちょっと、おかしな格好して近所を歩かないでよ」
「バカ者、どこがおかしな格好だ。和服に袴は、日本の伝統ではないか」
「屁理屈はいいから、袴は道場へ行ってからにしてよ」
 怒らすと、ろくなことがないのでここは妥協し、道場へ行ってから袴をつけるようにした。
 ところが、今日のことだ。
 袴は横が大きく開いているため、そこを椅子のソデに引っかけてしまったのである。
 ビリビリビリと軽快な音を立てて、袴の左側が見事に真っ二つ。
 マズイ。
 実にマズイ。
 愚妻に縫ってくるよう頼まなければならないではないか。
 きっと、罵詈雑言を頭から浴びせかけるに違いない。
 しかし、このままでは袴はつけられない。
 で、午後三時。
 早めの夕食を仕事部屋に運んできた愚妻に、
「実は」
 と話したところが、反応は予想どおり。
「だから言ってるでしよ! 袴なんかつけて仕事する人がどこにいるのよ!」
 さんざん嫌味を言われたが、それでも袴を袋に入れて持って帰って行った。
 愚妻のことだ。
 すぐに縫ってくれることだろう。

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