歳時記

妙想は〝寝たふり〟をして待て

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 脳の話をテレビで観た。
 解説は、人気の脳科学者・茂木健一郎氏で、とても面白かった。
 ことに暗記の話は、お経が覚えられずにいる私には、
(なるほど)
 ハタと膝を打つ思いであった。
 この記憶法は、まず声に出して書き写し、そのあと暗記対象を伏せて、思い出しながら書いてみる――というものだ。
 試しにおってみると、これが面白いように覚えられる。
 で、考えた。
(写経の要領で、小筆で書いてみてはどうか?)
 書の練習にもなって一石二鳥ではないか。
(さしもの脳科学者も、そこまでは気がつくまい)
 と得意気分で、さっそく小筆で書き始めた。
 うまくいかないのである。
 字を書くことに気を取られて、ちっとも暗記できないのである。
 一石二鳥ではなく、「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということか。
 欲をかいて〝写経〟など、心がけがよくないと反省した次第。
 脳の話と言えば、かねがね不思議に思っていることがある。
 街を歩いているときや、クルマを運転しているとき、風呂に入っているときなど、
(おっ、そうか!)
 と、不意に妙想が閃(ひらめ)くことがある。
 この閃きは、懸案を解きほぐすキィーワードであったり、コンセプトの眼目であったりするので、目の前の霧が一瞬にして晴れたような、浮き浮き気分になる。
 ところが、である。
 この閃きというやつは、その場でメモをしておかないと、蜃気楼のように消えてしまうのだ。
(ウーン、なんだっけな……)
 なまじ閃いただけに、気分は重く沈むのである。
「瞬時」のアイデアは、忘れるのも「瞬時」ということに気づいた私は、
(ならば)
 と、メモ帳を常に携行し、クルマを運転しているときはICレコーダまで用意するようになった。
 ところが、準備をすると、閃かないのである。
(さあ、いつ閃いてもいいぞ!)
 と期待して待っているのに、まったくもって妙想は浮かんでこないのである。
 そして、皮肉にもメモ帳を持たないときに限って、
(おっ、そうだ!)
 ピピピッと閃くという次第。
 これが不思議でならないのである。
「お金は、追えば逃げる」
 と言われるが、妙想もそれと同じということか。
 以上のことから、お金同様、
(妙想なんて期待してねぇよ)
 と、そっぽを向いていればいいということになる。
 知らん顔して待っていれば、蜜に吸い寄せられるように妙想のほうからヒラヒラと飛んでくるのだ。そこをすかさず、捕まえればいいのである。
 果報も妙想も〝寝たふり〟をして待てということか。
 寝てはだめで、〝寝たふり〟が要諦なのである。

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