歳時記

愚妻のイヤ味

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バタバタと法務が続き、原稿がなかなか進まない。
したがって法務がない日は自室に籠もっている。

本日は法務がないので午前中、僧侶の先輩と会って素敵な五条袈裟をちょうだいし、帰宅してから自室でパソコンに向かっていると、愚妻がベッドメイキングにやってきて、
「ヒマそうね」

イヤ味を言う。

「バカ者。○○社の原稿を書いておるのだ」
「さっさと書いちゃいなさいよ」

あっさりと言ってくれるのである。

「そう簡単にいくか」
「あら、あなたでも考えながら書くのね」

本当にイヤミな女なのだ。

乳ガンの手術をして10ヶ月。
イヤ味は絶好調なのだ。
術後に服用していた抗ガン剤は副作用がひどく、ひっくり返っていた日々がなつかしく思い出されるのである。

私のいまの楽しみはウォーキングで、午後3時になると毎日のように出かけていくのだが、
「まあ、次から次へと、よくも洗濯物を出してくれるわね」

これもイヤ味である。

「憎まれ婆さん、世にはばかる」
という言葉が浮かんだが、口にしなかった。
イヤ味に油をそそぐのは愚の骨頂なのだ。

いま、時計は午後2時20分。
ほとんど原稿が進まないまま、あと40分でウォーキングの時間である。

夕方の上空は羽田方面に向けて3~4機が飛んでいる。
ウォーキングの途中で足を止め、どこから飛んできたのか見上げながら想像をめぐらせるのは楽しものだ。

だが、帰宅が遅くなると、
「ちょっと、何していたのよ」

昨日も愚妻に鋭く咎められ、
「目を離すと何しでかすかわからないんだから」

イヤ味を言われた。

「飛行機を眺めておった」
など言えば、どんなイヤ味を言われるかわからず、
「途中で足が痛くなってな」

咄嗟に言うと、
「用事もないのに、ほっちゃかほっちゃか歩いているからよ」

やっぱりイヤ味を言われたのである。

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