歳時記

励ますことの難しさ

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抗ガン剤の副作用で、愚妻の頭髪が少し抜けたそうだ。

本人がそう言ったので、私は気がついた。

薄情でも、関心がないわけでもなく、副作用で抜けるものであれば抜けるのはごく自然なことなので、いちいち気にする必要はない。
私はそういう考えなのである。

だが、そう言ってしまえば身もフタもない。
そこで、こう言った。

「投与4日で全部抜け落ちる人もいる。それにくらべれば、おまえはラッキーだ」
「そうかしら」
「そうだ、そうに決まっておる」

愚妻は単純に喜んでいる。

何事もそうだが、人間は2つのタイプに分かれる。
前途に光明を描くことで奮起する人間と、最悪の状態を覚悟し、それをスプリングボードにして飛び上がろうとする人間だ。

愚妻は前者、私は後者である。

どっちがいいかわからないし、どっちでもいい。
要は、自分がどっちのタイプか知っておくことは大事だと思うのである。

「せっかく髪が抜けたんだ。しっかり帽子をかぶれ」
エールを送ったのだが、
「ちょっと、バカにしてるの!」
怒っていた。

励ますというのも、意外に難しいものなのである。

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