歳時記

「ビートたけし」に思う

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 ビートたけしの独立騒動は加熱の一途である。
 たけしが知らない間に、森昌行社長が「オフィス北野」の筆頭株主になっていたとかいないとか、裏切ったとか、裏切られたとか。
 内実は知らない。
 人さまのトラブルは見ていて実に楽しいもので、このことを誰より知っているのがたけし自身だろう。
 どう結末をつけて見せるのか、お手並み拝見である。
 週刊誌記者時代、たけしを何度か取材したことがある。
 下積みをへて「ツービート」で世に出たころのこと。
 浅草の居酒屋で取材していると、酔った芸人仲間が割り込んできたので、
「いま取材中なんだ」
 と、たけしがたしなめると、
「またウソ言ってら」
 と嘲笑したことがある。
 たけしが取材を受けるなど、その芸人には信じられなかったのだろう。
 そういう時代もあったのだ。
 確かこのときだったと記憶するが、たけしが枕元にメモ帳を置いて寝ているという話を聞いて、感心したことがある。
 たけしは、こう言った。
「夜中、寝ていてひょいと『どこの馬の骨かわからない牛の骨』というギャグが浮かんできてさ。すぐ起きてメモ帳に書きつけた。で、朝。それを見て、なんだ、くだらねぇなんてさ」
 笑いにまぶして言ったが、芸に対する真摯な姿勢に、「そこまでやっているのか」と敬服したことを覚えている。
 週刊誌記者の足を洗って、仲間と編集企画会社をやっていたころ、たけしのファンクラブの会報『スィート・ビートクラブ』の制作を請け負った時期もある。
 取材には私は直接タッチしなかったが、ずっと気になる存在だった。
 やがてたけしはお笑い界のトップに立ち、映画監督として「世界のキタノ」と賞賛されるに至るが、その原点は「枕元にメモ帳を置いて寝る」と語った、あの一言にあるように思っている。
 努力は報いられるとは限らない。
 だが、努力は決して裏切ることはないのだ。

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