歳時記

スリ換えという「悪」

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 将軍様のミサイルよりも、〝日馬富士のシャンパンボトル〟のほうがリアリティがあるのだろう。
「あれで頭を殴られたら危ないわよね」
 と愚妻が眉をしかめている。
「バカ者。いまは国家の非常時。ミサイルが打ち込まれたら、シャンパンボトルどころではない」
 叱りつけるが、
「ボトルで殴られるほうが恐いわよ」
 と譲らない。
 ミサイルが飛んでくるという恐怖は、リアリティを持たないということなのだろう。
「いいか、もしミサイル警報が出たら、すぐにコタツの下に潜り込むんだぞ」
 愚妻にアドバイスすると、
「コタツより、トイレのほうがいいんじゃない?」
 真顔で言っている。
 地震じゃあるまいし、こんな程度の認識なのだ。
 もっとも、私が心配したところでどうにもならない。
 トイレで〝フン死〟するのは情けないので、日帰り温泉で溺死することにしよう。
 それにしても、日馬富士の一件は、本質のスリ換えがあまりに多すぎるな。
「貴ノ岩が『すみません』と謝ればその先にいかなかったと思われる」
 といった報告が危機管理委員会でなされたが、これは、
「謝らなかった貴ノ岩に非がある。したがって、日馬富士は悪くない」
 というスリ換えである。
「シャンパンボトルを振り上げたが、濡れていたので手からすべり落ちた」
 という説明は、
「ボトルで殴ったわけではない」
 と日馬富士を擁護しているわけだが、視点を変えれば、
「すべり落ちなければ殴っていた」
 ということになる。
 同じ理屈で、ヤクザがこう言ったらどうか。
「拳銃の引き金を引いたら、壊れていて弾が出なかった。せやから、ワシは悪うない」
「そうかそうか、アンタは悪うない」
 なんてことはあり得まい。
「貴乃花親方はどうして協会の聴取に応じないのか」
 と、横審で華道家元夫人が批難していたが、日馬富士は暴行を認めているのだから、「事件」はハッキリしている。
 貴乃花が協会の聴取に応じることと、事件とはシンクロしないにもかかわらず、貴乃花を批難することで、問題の本質をスリ換えている。
 そして何より危惧するのは、
「被害者にも落ち度がある」
 といった論調が見られることだ。
 こうした思考は、
「いじめは、いじめられる側にも問題がある」
 といったスリ換えにつながっていく。
「北朝鮮の暴走は、それを許した側にも問題がある」
 といったスリ換えにつながっていく。
 悪いものは悪いのだ。
「盗人の三分の理」などに、惑わされてはならない。

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