歳時記

桂銀淑の逮捕

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 これまで、いろんな方を取材してきた。
 政治家から実業家、ヤクザ、芸能人、フーゾク関係者まで、社会の表裏のすべての分野に及ぶ。
 それぞれの分野で名を成した人の話は、とても勉強になった。
 そういう意味で、週刊誌記者をやったことは大きな財産だと思っている。
「アポイントは絶対に動かさない」
 とおっしゃった著名実業家の言葉は〝目からウロコ〟だった。
 先約があり、あとから自分にとって大事な人からアポが来とする。
 となれば、大事な人のアポを優先して、先約をズラそうとするが、
「それはダメだ」
 とおっしゃった。
「打算で動くな」
 ということだ。
 あるいは、
「持ち上げるのも大衆なら、地に叩きつけるのも大衆だ」
 と溜息をついた有名タレントもいた。
 人気を得ようと渾身の努力をし、人気がなくなればタレント生命は終わるというわけで、
「ファンは有難くも、これほど怖い存在はない」
 と言った。
 演歌歌手として一世を風靡した桂銀淑が、覚醒剤使用で韓国で逮捕された。
 彼女が人気絶頂のころ、彼女が自伝を出版するにあたり、当時、編集企画会社をやっていた私は、お手伝いをしたことがある。
 京都のホテルでディナショーを終えたあと、彼女はスタッフを前に声を荒げ、憤懣をぶちまけた。
 ショーの進行に不手際があったのだろう。
「私が命懸けで歌っているのに、あなたたちはそれに応えてくれていない!」
 というわけだ。
 その彼女が2007年、覚醒剤で逮捕され、日本の芸能界から消えて行き、このたび韓国でも逮捕された。
 ショーの構成ひとつに命懸けで取り組んでいた彼女の姿が鮮明に記憶に残る私は、人間の、人生の危うさを思わないわけにはいかない。
「なんてバカなことを」
 と言うのはたやすいが、バカなことをしでかすのが人間である。
 順風に背を押されているうちはいいが、風向きの角度がちょっと変わるだけで、たちまち「逆風」になるのだ。

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