歳時記

旅館の風呂で「あっ、ヤバイ!」

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 昨日、合宿を終えてから、隣接する旅館の温泉へ入りに行った。
 合宿から仕事モードに頭を切り換え、原稿の続きを考えながらガラリと浴室の引き戸を開けると、スリッパや靴が乱雑に脱いであった。
(けっこう入っているな)
 と思いながら、足もとに視線を落として雪駄を脱ぐ場所を探していたら、視界の端に小太りの人間が写った。
 鏡に向かって身体を拭いている。
 体形から見て横浜支部のK氏だと思い、私は雪駄を脱ぎながら、
「早いね」
 と声をかけたが、返事がない。
 聞こえなかったのかと思い、顔を上げて脱衣所を見まわすと、何となく違和感を覚えた。
 おばちゃんたちが数人、身体を拭いていたのである。
(あれ? 従業員が入っているのか?)
 という思いがよぎってすぐに、
(あっ、間違えた!)
 女湯だったのである。
 あわてて外へ飛び出てみると、男湯と女湯を今日は入れ替えていたのだった。
 それにしても、女性たちはよくぞ「キャッ!」と叫ばなかったものだ。
 あとでつらつら考えるに、私がごく自然に入って行ったから、女性たちも違和感がなかったのではないか。
 しかも「早いね」などとノンキなことを言っている。
「男が入ってきた」
 という感覚がなかったのだろう。
「なりきること」の強さということか。
 帰宅して愚妻に顛末を話して聞かせ、
「自然体とは〝なりきる〟ということを言う。自然体がいちばん強いことを、わしは合宿で学んだ」
 と、さとしたら、
「なに言ってるの。〝キャー!〟なんて叫ばれたら大変なことになってたわよ」
 人生のさとりも、現実主義者にかかれば一刀両断なのである。

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