歳時記

「冬の陽気」を憂う

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 今日もポカポカ陽気である。
「じゃ、畑でも行くか」
 ということになり、私と、今年から法名の「映芳(えいほう)」と呼ぶようになった87歳の爺さん、それに愚妻、さらに今日は駄犬の「マック爺さん」の3人1匹である。
 駄犬は畑仕事の邪魔になるので、一緒に連れて行くことに私は反対なのだが、愚妻も映芳爺さんも孫のごとく可愛がっている。
 うっかり反対しようものなら、私は轟々(ごうごう)たる非難を浴びるだろう。
 それでやむなく、3人1匹となった次第。
 畑に着くと、
「いい天気じゃのう」
「ホント、冬らしくなくて、いいわねぇ」
 と、マック爺さんの頭を撫でながら、愚妻が映芳爺さんにうなずいている。
「バカ者」
 私は、そのノーテンキぶりをたしなめた。
「冬らしくないことが、どうしていいのだ。冬は冬らしく、夏は夏らしく。これが日本の四季であり、この四季が日本人の勤勉さと情緒、そして自然を育(はぐ)んできたのだ」
「どうかしたの?」
「どうもせん」
 話してもムダだと思いつつ、私は続けた。
「人間も自然も、〝らしく〟ということが何より大切なのだ。男は男らしく、女は女らしく、若者は若者らしく、そして年長者は年長らしく。しかるに、いまの日本は、その〝らしく〟がなくなってきた。まるで今日の日和(ひより)のように、冬なのにポカポカと」
「さっ、マック、散歩しよう」
 鼻歌を歌いながら、愚妻はマック爺さんを散歩に連れて行き、映芳爺さんが、
「お~い、じっとしとらんで、肥料をやらんかい」
 鍬(くわ)を手に、私を呼んだ。
 季節感はいま、確実に失われつつある。
 冬の陽気を、私は憂(うれ)うのだ。
 
 

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