歳時記

湯船でイチゴ

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 自宅の風呂で、本を読みながら果物を食べるのを楽しみにしている。
 このところイチゴなのだが、イチゴは我が家の駄犬の大好物。
 したがって私が風呂場へ向かうや、先回りして風呂場で〝お座り〟をして待っている。
 いつぞやも紹介したが、駄犬は毛が黒いトイプードルで、「真っ黒」からとって名前は「マック」。ついこの間まで「マッ君」「マッちゃん」と呼んでいたが、老いさらばえたいま、私は「マック爺(じい)さん」と呼んでいる。
 その〝マック爺さん〟の機嫌をとろうと、87歳のジイさんが牛乳をやったり、あれこれ食わせるものだから、体重がこれまでの2倍、8キロの〝肥満ジイさん〟になっている。
 だから飼い主の愚妻は、〝マック爺さん〟の間食を厳しく戒める。
〝マック爺さん〟は風呂場のタイルの上に〝お座り〟をして、湯船でイチゴを食べる私に、
「ク~ン、ク~ン」
 と悲しい声を出してせがむのだが、
「ダメ!」
 愚妻の一喝にビクッとしている。
 だが不思議なことに、「ダメ」と言いながら、愚妻は〝マック爺さん〟を風呂場から外へ追い出そうとしないのだ。
(ハハーン)
 と私は察し、
「では、一つだけイチゴをやろうではないか」
 と、一つだけ噛み砕いて与えた。
〝マック爺さん〟は満面の笑顔(たぶん)で、喜んで食べた。
 ついでに愚妻もうれしそうな顔をしている。
 愚妻としても、〝マック爺さん〟にイチゴを食べさせてやりたいのだが、自分で手を下すのはイヤで、私がやるぶんには「しょうがない」というわけである。
 これを身勝手と取るか、愛情の発露と取るか、意見の分かれるところだろう。
 一つ食べて得心したのか、〝マック爺さん〟は腰を上げた。
「今夜は冷え込むそうだから、しっかり暖まってよ」
 と愚妻は告げて、〝マック爺さん〟と風呂場を出て行ったが、はてイチゴは冬に食べるものだったか?
 そんな思いがよぎった。
 イチゴの旬は5月ではないか。
 そのことに気づくと、湯船に浸かって食べるイチゴが、何やら〝まがい物〟のような気がしてきたのだった。
 これが昨夜のことで、
(よし、今夜からリンゴにしよう)
 と、いま心に決めたところである。
 

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