稽古のとき、稽古着の上に袴(はかま)をつけることがある。
着物に袴をつけるときの練習である。
ところが、小学校低学年の子供たちにはスカートに見えるらしく、
「あっ、館長がスカートはている」
ククククッ、と笑う。
小3の女の子など、何を思ってか、私のそばにやってきて、
「館長、それ、穿かないほうがいいよ」
声をひそめて注意してくれるのである。
スカートを穿いていると思われたのでは、実にマズいので、私が誤解を解くべく言う。
「これは袴。剣道の選手が穿いているだろう」
「剣道と空手は違うもん」
「じゃ、サムライ。ほれ、テレビで龍馬が穿いてるだろう」
「館長は龍馬じゃないもん」
聞く耳を持たないのである。
あるいは先日。
稽古が始まる前、着物で道場にいたところ、低学年の女の子が早めにやってきて、
「館長、着物を着るのは七五三のときだよ」
「違う」
と、私が抗弁しても、「着物は七五三」と意って譲らないのである。
日本の文化は、もはや風前のともしびである。
かつて弟子は、師に対して、三尺下がって影も踏まなかったのに、いまの子供たちは、私のスキンヘッドを競うようにして触りたがる。
「長幼の序」と言ったところで、いまの若者の何人が理解できるだろう。
「長」の年代になった私は、ひたすら嘆くのである。
袴と着物と〝長幼の序〟
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