歳時記

壁にぶつかったら迂回せよ

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 土曜の夜遅く、鴨川市の仕事部屋に来て、日曜は朝から館山の健康ランドに出かけた。
 6月刊行予定本の「まえがき」を書くのが目的だ。
 ザブンと湯船に浸かるや、たちまちアイデアが閃いた。
 嬉しいような、恨めしいような気分だが、忘れないうちにと、急いで上がると、二階の休憩室に行った。
 リクライニングを倒し、ノートパソコンを起動し、キィーボードを打ち始めたところが、前方からイビキ。
 これが、うるさいのだ。
 イラつくが、
(イビキごときで集中できないようでは未熟だ)
 と、自分に言い聞かせる。
 ところが、言い聞かせれば聞かせるほどイライラはつのるのである。
 そこで、
(なるほど)
 と私は悟った。
 無心になろうとすればするほど、無心とほど遠くなるのだ。
 無心になろうとしてはいけない。
(イビキにこだわれ。思い切りイライラしろ)
 と逆療法で臨んでみた。
 すると、どうだ。
 イライラは、バカ正直に、ますますつのっていくのである。
 そこへ愚妻がやってきて、
「どうしたの?」
 私の顔を覗き込む。
「バカ者。あのイビキが聞こえんのか」
「隣の部屋へ行けばいいじゃないの」
 いともあっさり言った。
 そうか、そうだった。
 退避すればいいだけのことだったのである。
 何事も当事者になれば、本質が見えなくなるということを、改めて悟った。
 壁にぶつかったら、越えようとするのではなく、迂回する方法を考えてみることが大事ではないか。
 壁に背を向けるのは逃避だが、迂回は「攻め」なのである。
 そんなことを考えているうちに、
(あッ!)
 何を書こうとしたのか、閃いたアイデアは雲散霧消していたのである。

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