歳時記

「未練」は不幸の元凶である

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 昨日、話題の阿修羅展を見に、カミさんと上野の国立博物館へ出かけた。
 朝10時30分にもかかわらず、すでに「70分待ち」の表示。しかも、ゾロゾロと四方から見学人が集まってきているではないか。
「やめた。恐竜展に行くぞ」
 急きょ、科学博物館に予定変更。
 私は、待つ、とか並ぶ、というのが大嫌いなのである。
 で、帰途。
 浅草の和服店「ちどり屋」へ寄って、浴衣と単衣を選びながら、阿修羅の代わりに何とかザウルスを見てきたと言うと、
「閉館まぎわに行けば、すいているそうですよ」
 と奥さん。
 カミさんが、私の顔をチラリとうかがう。
「よし、行くぞ!」
 と言い出すのではないかとヒヤヒヤしているのだ。
 だが、私は一度決断したことは、たとえ後悔しつつも貫く。
 もう阿修羅は見ないと決めたら、絶対に見ない。
 鉈(なた)で雑木の枝を払うように、未練は力まかせに断ち切ってしまうのである。
「いいか」
 自宅に向かうクルマのなかで、私がカミさんに諭した。
「阿修羅が恐竜になったっていいではないか。これは、ご縁なのだ。阿修羅にだわってはいけない」
「私は最初からこだわってないわよ。阿修羅、阿修羅と言ったのはあなたじゃないの」
「だから、そういうことも含めて、きれいさっぱり忘れてしまうのだ。未練こそ、苦しみの元凶ぞ。わかるか?」
 カミさんは返事をしなかったが、身勝手と言われよう、未練は人生の大敵だと、私は思っている。
 星の数ほど夢を描き、片っ端から捨てていけばいいのだ。

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