歳時記

「知らぬが仏」とは、よく言ったもんだ

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 今朝、気になっていたインフルエンザの予防接種に、近所の医院へ行った。
 混んでいたら後日にしようと思ったが、幸い4、5名しかいなかったので接種を受けた。
 接種後、異変がないか見るため、30分ほど待合室で休憩させられてから、帰ろうと席を立って、
(あッ!)
 と胸の内で叫んだ。
 入口にスリッパがある。
 患者さんたちの履き物が、きちんと下駄箱に納まっている。
 なんと私は靴を脱がず、土足のまま医院にあがって接種を受けていたのである。
 看護婦さんたちも、医師も、患者さんたちも、誰一人としてそのことを指摘してくれなかった。
(なるほど、これが〝知らぬが仏〟というやつか)
 と私は得心した。
 私があまりに堂々としていたので、誰も土足に気がつかなかったということなのだろう。
 このことを帰宅して女房に話し、
「何事も堂々とすべし」
 と諭すと、
「ああ、恥ずかしい。堂々じゃなくて、ツルっ禿のヘンな男が来たと思って無視されたのよ」
 相変わらずバチ当たりなことを言っていた。
 私は考え事をしていると、集中のあまり、ついポカをやるのだ。
 以前、某有名デパートの女子トイレに入ったこともある。
 考え事をしながらトイレに入り、やけに小さいアサガオ(男性の小便用便器)だな、と思いながら用を足し始めた。
 私の背後を女性客が何人か行き来する。
 用を足し終え、手を洗おうと思ったが、洗面台は女性客たちが鏡を見ながら化粧を直している。
 空きスペースがないので、手を洗わず、そのままトイレを出た。
 何かが脳裏に引っかかるというのか、なんとなくヘンだな、と思いながら歩いていて、
(あッ!)
 と胸の内で叫んだ。
 女子トイレに間違って入っていたことに気がついたのである。
 冷や汗、タラリ。
 もし、「キャーッ!」と女性客が叫んでいたらどうなっていたろうか。
「うっかり間違えまして……」
 本当であっても、警備員は耳を貸さず、警察に突き出されていたろう。
 よくぞ「キャーッ!」の悲鳴があがらなかったものだ。
 いま振り返るに、私があまりに堂々としていたため、オカマだろうと女性客は思ったに違いない。
 そんな経験から、「やっぱり人生、何事も堂々である」と、いまさらながら思うのである。
 余談ながら、女子トイレには、子連れ客のために、小さな男性用便器もあることを、このとき知った。

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