歳時記

メダカが死んだ

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 メダカ8匹がすべて死んでしまった。
 早朝、いつものよう道場の仕事部屋に入り、エサをやろうかどうか一瞬、迷ったが、
(寝起きだから食べないな)
 と思い直し、原稿を書き始めた。
 それから小一時間ほどたってからだろうか。
 なんとなく部屋の雰囲気がいつもと違うのだ。
 不審に思い、部屋を見まわしてみて、水槽の濾過器が作動していないことに気がついた。
 モーターが低く唸る音、そしてブクブクと水が循環する音がしていないので、いつもと雰囲気が違ったわけである。
 そういえば昨夜、モーターを止めたことを思い出した。
 エサをやると、いつもブクブクにまぎれてしまうので、昨夜は静かな水面にエサを浮かべてみようと思ったのである。
 それで、モーターのスイッチを切ったまま、入れるのを忘れていた。
 で、立ちあがって水槽の場所に行って、
(アッ!)
 メダカが死んで浮いていたのである。
 あわてて数えてみる。
 三度、数え直して、やはり8匹。
 すべてが死んでいた。
 早朝、部屋に入ったときに水槽を見たはずなのに、メダカが泳いでいたかどうか記憶がない。
(泳いでいるはず)
 という先入観によって目がふさがれていたということか。
「見る」ということの頼りなさを、このときつぐづく思い知らされたのだった。
 いつも行くウナギ屋でもメダカを飼っているのだが、
「メダカは手間いらず。ブクブクもいらないから」
 と、女将さんが言っていた。
 数日前、ここにやって来た編集者も、
「うちもメダカを飼っているんですよ。メダカは生命力が強いから、飼いやすいですよ」
 と言っていた。
(こりゃ、楽でいいや)
 と思った矢先の、メダカたちの死である。
 水槽を片づけながら、命は、一寸先はわからないのだということを改めて思った。

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