歳時記

愚妻の執念

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何年前になるだろうか。
スポーツタイプのクルマが欲しくなったときのこと。
ホンダからCR-Zが発売になり、私はこれを買おうとした。

だが、愚妻が何と言うか。

愚妻は「狭い」「低い」が大嫌いなのだ。

とにかく実物を見せて説得すべく、都内にあるホンダの「ウェルカムプラザ青山」に連れて行った。

「見ろ、カッコもいいだろう。価格も高くないし」
「そうねぇ」
「狭いけど、後ろにも乗れるんだ」

この一言がマズかった。

「あら、そうなの。ちょっと乗ってみようかしら」
助手席のシートを倒し、愚妻が乗りこもうとして、ゴツン。
ドアのルーフに頭をぶつけたのである。

「アッ!」
と私が叫んだときは遅かった。

「ダメよ、ダメダメ。こんな狭いクルマ、いらない!」

一度、言い出したら愚妻は絶対に引かない。
かくしてCR-Zの購入は即座に却下されたのだった。

今朝、日帰り温泉に愚妻を送っていったとき、CR-Zが停まっていた。
すでに生産はしていないので、中古でもいいから欲しいと思い、
「おっ、あのクルマ、なかなかいいじゃないか」

水を向けると、

「ダメよ、ダメダメ。頭をぶつけるから」

即座に言い放った。
何年がたっても執念深くおぼえているのだ。
私はただ黙るばかりであった。

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