『韓非子』に、
《守株待兎(しゅしゅたいと)》の故事がある。
「株(くいぜ)を守りて兎(うさぎ)を待つ」
とも読む。
ある日のこと。
農夫が野良仕事をしていたら、ウサギが駆けてきて切り株に足をとられて、すってんころりん。
(おっ、ラッキー!)
と、捕獲した農夫は大喜びし、
(畑仕事で汗水流すのはアホのやること)
というわけで、畑仕事はやめて毎日、切り株のそばでウサギを待った。
で、どうなったか。
切り株につまずくウサギなど、そうそういるわけがなく、畑は荒れ放題になったというお話。
この寓話は、北原白秋の童謡で、よく知られている。
「待ちぼうけ まちぼうけ
ある日せっせと野良稼ぎ
そこへうさぎが飛んで出て
コロリ転げた木の根っこ」
この寓話が意味するところは、
「先王ノ政(まつりごと)ヲモッテ当今ノ世ヲ治メントスルハ、ミナ守株ノ類ナリ」
と、儒教を批判したものだが、現在では「濡れ手に粟」を戒めるものとしてつかわれている。
誰もが農夫を笑うだろ。
私も大笑いした。
「待ちぼうけ 待ちぼうけ
今日は今日はで 待ちぼうけ
明日は明日はで 森の外
うさぎ待ち待ち 木の根っこ」
待ちくたびれた農夫のマヌケ顔を想像して笑いながら、ドキリ、とする。
私は自分でそうと気がつかないだけで、木の根っこにじっと座って、ウサギを待っているのではないか。
そう思うと、笑いも引きつってくるのだ。
切り株でウサギを待つ「農夫」
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