この数日、天気がいいので、愚妻に命じて順次、着物に風を通させた。
だが、私専用の桐箪笥が二竿あり、まかせておくと、どの引き出しから取り出したかわからなくなり、あとで整理に困る。
私は一覧表をつくり、どの引き出しに、どんな着物を仕舞ってあるか記入してあるのだ。
だから一覧表を見ながら、
「今日は一段目のものを干せ」
と、具体的に命じるわけだ。
むろん、愚妻の機嫌がよかろうはずがない。
「おんなじような着物ばっかり」
「しつけ糸がついたままのものもあるわよ。わかってるの?」
イヤ味を言うのだ。
一時期、着物の古着に凝り、時間さえあればインターネットをチェックし、店を訪ね、程度のいい着物を漁り、私にドンピシャリの仕立て流れを見つけた時の喜びは、何にも代え難かったものだ。
おかげで、一覧表にしなければわからなくなるほどの枚数になった。
袴もあれこれあり、そういえば一度も付けてないものもある。
残りの人生を考えると、精出して着物を着よう。
「よし、今日から再び着物生活に入るぞ」
愚妻に宣言すると、
「着物を着てどこへ行くのよ」
そう言われると返答に困る。
いまはもっぱら日帰り温泉用のスエットで、先日、買ってきたばかりだ。
仕事も忙しく、冷や汗をかいている。
着物どころではないのだ。