歳時記

雪ニモ負ケズ

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 朝風呂に入り、着替えていたら、
「どこへ行くの?」
 と、愚妻がコタツに両手を突っ込んだまま問いかけてくる。
「道場の仕事部屋だ」
「雪が積もってるのよ」
「ナニ!」
 昨日からずっと家に籠もっていて外を見ることがなく、雪が積もっていることに気がつかなかった。
 降雪のことはテレビニュースで知ってはいたが、実際に自分の目で見ないとリアリティーがなく「他人事」である。
 カーテンを引いて庭を見ると、なるほど雪が積もっている。
「日帰り温泉には行かんのか?」
 嫌味で問うと、
「もう少したってから」
 窓の外に眼をやったまま、真顔で言う。
 愚妻は行く気なのだ。
 昨日も行ったのに。
「日陰は道路が凍結しているぞ」
「だから、あっちの道路から行こうかと思って」
 熱心なことだ。
 この気力と情熱は、いったいどこから来るのか。
 私は再びパジャマに着替える。
 愚妻は日帰り温泉で鼻歌。
 私は二階の自室に籠もって、ゲラの校正なのだ。
 

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