歳時記

飛び去った「妙想」

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「妙想飛来」ということについて、これまで何度か、このブログで触れている。
 梅原猛さんの言葉で、アイデアや気づきは突然、脈絡なく閃いてくるというものだ。
 いい言葉ですな。
 原稿を書いていて煮詰まったときなど、
「妙想飛来」
 と自分に言い聞かせるだけで、気分が楽になる。
 私の場合、湯船に浸かっているときに妙想は飛来するのだが、昨日も温泉で突如、気に入った書き出しが飛来した。
「よし」
 と湯船を出て、急いで原稿にすべく脱衣所で身体を拭いていたら、小学校時代の思い出が、これも唐突に飛来してきた。
 近所に小学校の教頭先生が住んでいて、高校生だった教頭の息子が秀才で東大を目指していたのだが、彼は風呂に入っても頭を洗わないという評判だった。
 頭を洗うと、暗記したことを忘れそうで、怖いというわけである。
(バカみたい)
 と、私は子供心にあきれたものだが、いま思えば、そのくらい真剣に勉強していたということなのだろう。
(なるほど、そういうことだったのか)
 と、脱衣所で納得しつつ身体を拭いていて、
「あッ!」
 そんなことを思い出していたら、せっかく飛来した「書き出し」が、きれいさっぱり消し飛んでしまったのである。
 しょうがないから、もう一度、湯船に浸かってみたが、妙想は二度と戻ってはこなかった。
 逃した魚は大きいと言うが、飛び去った妙想は、それはそれは素晴らしいものだったに違いないと、ホゾを噛んだのである。
 

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