熊があちこちで出没し、人間に危害を加えている。
そのテレビニュースを観ていて、愚妻が言う。
「ちょっと、丹沢は大丈夫なの?」
今週の土、日、昇空館の合宿が丹沢であるのだ。
丹沢は富士山の東方、神奈川県北西部に位置する。
山の中だ。
私は日曜に所用があるため、土曜の夜、懇親会が終わって帰るのだが、熊は夜中に徘徊するとか。
それで大丈夫なのか、と愚妻が言うわけだ。
「熊よけの鈴を持っていったら?」
「バカ者。クルマの中で鈴を身につけてどうする」
「旅館から駐車場までが危ないんじゃない? 百均で鈴を売ってるらしいわよ」
言われてみれば一理ある。
で、さっそく本日、百均に出かけた。
愚妻に買いに行かせ、私がクルマで待っていると、
「鈴を2つ買ってきたわよ」
得意顔で言う。
「なぜ2つなのだ」
「1つはウォーキングのときにつければいいじゃない?」
浅はかな女だ。
このあたりに熊など出るわけがなかろう。
「そんなものをチリンチリン鳴らして歩いていると、ヘンな人に見られるではないか」
「ヘンな人なんだからいいじゃないの」
憎まれ口を叩くのである。
何事も心配すればキリがない。
だが、心配するから準備をする。
心配と準備は表裏の関係にあることから、「心配するな」と「準備しろ」は矛盾するのだ。
「おい、このパラドックスがわかるか?」
愚妻に問うたが、チリンチリンと熱心に鈴を鳴らしながら、
「けっこう大きな音。これじゃ、熊にも聞こえるわね」
ノンキなことを言っているのだ。