抗がん剤を投与すると、頭髪が抜けることが多いそうだ。
ところが、抜けを抑える方法があると、医者が言う。
抗がん剤を投与するとき、ヘッドギアのようなものをかぶり、頭を冷やすのだそうだ。
「血流を抑えるんですね」
と、お医者さん。
完璧とは言えないまでも、効果があるそうだ。
ただし、保険がきかないので実費だと言う。
1回が2万円とか2万5千円とか(よく聞いていなかった)。
いずれにしても、たかが頭髪をガードするために、4回で約10万円ではないか。
私は愚妻に言った。
「いいよ、いいよ、髪の毛なんてなくたっていいよ。俺なんかツルっ禿でも何の問題もないぜ」
医者がチラリと私のスキンヘッドを見やる。
私が坊主をやっているのを、当然ながら知らない。
医者は見やっただけ。
私には何も言わないで
「どうされますか?」
愚妻に問うと、
「お願いします」
キッパリとした返事。
何歳になっても、頭髪は気になるということか。
まあ、それはよしとしよう。
さて、頭髪がどうなるのか。
私は愚妻の頭髪を眺めるばかりである。
一方、私はここ2、3日、フラフラする。
真っ直ぐ歩けないこともある。
頸椎症がぶり返し、鎮痛薬を飲んでいるが、この薬を服用すると、こうした症状が出るのだ。
よくわからないが、そのせいかもしれないし、頭の血管に異常が生じているのかもしれない。
こういうときに限って、法務が忙しい。
「鎮痛剤、飲まなきゃいいでしょ」
愚妻が考えもせず、口にする。
「好きで飲んでいるわけではない」
「困ったものねぇ」
「おまえの乳がんこそ、困ったものだろう」
と言いたいが、そうは言えず、私は黙るばかりである。
「明日もフラフラするようなら、月曜に医者に行ってきなさいよ」
愚妻は軽いノリで言う。
「バカ者、月曜はおまえを病院に送って行かなきゃならないんだぞ」
という言葉も飲み込んで、
「そうだな」
と答え、私は黙るばかりである。