歳時記

腕のシビレ

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前々からそうだが、左腕に時折シビレがある。
日帰り温泉の〝電気風呂〟に浸かっているような感じで、ピリピリとして実に気持ちがよいのだ。

愚妻にそう告げると、
「ちょっと、なにバカなこと言ってるのよ」
すぐに整形外科へ行けとうるさい。

しょうがないので昨日、診察に行くことにして外に出てみると雨が降っているではないか。
風も強い。
寒くもある。
とたんに私のご機嫌は斜めになる。

病院に行っても、素直に診察を受ける気がしない。

「腕のシビレは首からきていますね。加齢も影響しています」
レントゲンを見ながら中年の医者が言う。

「あっ、そ。じゃ、放っておきましょう」
私が言うと、
「いやいや、放っておいてはいけません」
医者があわてるが、私はかまわず、
「そんなこと言ったって、加齢からきているのならしょうがないでしょう」
逆らうのだ。

で、別室でとりあえずリハビリ治療ということになった。

若い療法士(と言うのかどうか)が問診し、私が長時間パソコンを使用していると伝えると、
「ああ、それはよくないですねぇ。同じ姿勢を長く続けるのは」
「わかってるよ、そんなことは」
不機嫌に答え、
「わしが知りたいのは、このまま放っておいて大事に至るかどうかなんだ」

療法士(と言うのかどうか)は当惑しつつ、
「患者さまのほうで取り立てて不自由でなければ」
「不自由なんか何もないよ。シビレはピリピリして気持ちがいいんだ」
「そういうことであれば」
曖昧な笑顔で言った。

リハビリのあと、
「次回のご予約はどうされますか?」
療法士(と言うのかどうか)が、ためらいがちにきくので、
「次のことなんかわからん」
「そうですよね」
曖昧な笑顔のまま言った。

何もかも雨が悪いのだ。
唐突にカミュの『異邦人』が脳裡をよぎる。
主人公のムルソーは、殺害の動機を「それは太陽のせいだ」と答える。
(なるほど、そうか)
ムルソーの気持ちが、私は腑に落ちて理解できたのである。

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