歳時記

言葉の妙

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昨夜は、エベレストを遊覧飛行(と言うのかどうか)してきた友人と、食事しながら話を聞いた。

飛行機からエベレストを見下ろした感想は、
「よくぞ、こんな山に登ったものだ」
という登山者への感嘆である。

含蓄に富んだ言葉ではないか。
チャレンジ精神を讃えているようであり、何のためにそうまでするのかという懐疑であり、自分にはとてもマネできないという敬意であり、いろんな思いが「よくぞ登ったものだ」の一語に集約されている。

一語に複雑な意味を込めるという表現法は、物書きの端くれとしてはとても関心があるのだが、これは双方の言語感覚と価値観が同じでなければ、面白さが共有できないのではないか。

そう思い、試しに昨夜帰宅して、
「おまえは、よくできた女房だな」
愚妻に言うと、
「ちょっと、何しでかしたのよ」
恐い顔をした。

この一語の奥深さには思い至らず、私が何かドジを踏み、それを糊塗するための伏線として受け取っているのだ。

「何もしておらん」
たしなめるが、
「ホント? 怪しいわね」
ジロジロと私の顔を見る。

エベレスト遊覧の話しをしてやろうかと思っていたが、何だか気力も失せ、そそくさと風呂に入った昨夜なのである。

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