歳時記

人生のオトシマエ

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 人生は「ゼロサム」である。
 つまり、足してゼロ。
 若いころにワガママ放題やっていると、晩年に至って、そのオトシマエをつけさせられることになる。
「わが子の世話を一切したことのないあなたが、いま道場で幼児の世話をしているんだから不思議よねぇ」
 と愚妻があきれる。
 幼児が私のことを「おじいさん」と呼び、スキンヘッドをピシャリとやっても、私はニコニコしている。
 それを見てハラハラするのは、私の短気さを知っている娘で、
「人間て、変わるのねぇ」
 と、愚妻とヒソヒソやっている。
 人間が変わったのではない。
 私は人生のオトシマエをつけさせられているのだ。
 ここ2週、続けてホテルのディナーバイキングに愚妻と出かけた。
 愚妻は定額の「飲み放題」を頼み、私はお茶である。
 当然ながら、私はすぐに食事が終わるが、愚妻は元を取るべくグビグビ飲んでいる。
 だから、長っ尻になる。
「早く飲めよ」
 とイラ立って言えば、
「急いで飲んだら悪酔いするでしょ」
 柳眉を逆立て、さらに、
「今までさんざん飲んできたのは誰なのよ。千葉駅だ、船橋駅だって、深夜、私にクルマで迎えに来させたのは誰なのよ」
 昔のことをほじくり返せばエンドレスになる。
 周囲の目もある。
「わかった、わかった。家までちゃんと連れて帰るから、死ぬほど飲んでくれ」
「言われなくても飲むわよ」
 こういうのを「人生のオトシマエ」というのだ。

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