歳時記

杖に気をつけよ

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 今朝も橋の上で分かれ、愚妻は日陰の「煩悩の道」を、私は陽光燦々たる「悟りの道」を行く。
 早朝5時15分とはいえ、この時期の陽光燦々はちと暑いが、全身から吹き出る汗は、まさに煩悩のような気がして、実に気持ちがいい。
 汗というやつは、どんなに大量に流しても死ぬまで決して尽きることはなく、まさに煩悩はかくあらんということ気づかされる。
 これも「悟りの道」のおかげということか。
 口笛を鳴らして小鳥たちに挨拶しながら歩いていたら、前方から熟年オヤジが歩いて来る。
 手に棒を持っている。
 私も持っている。
 習性で、神経をとがらせながら、
「お早うございます」
 と用心深く挨拶を交わしつつ、熟年オヤジの棒を見やると、長めの竹の杖(つえ)だった。
 このとき私は、私がいつもウォーキングのときに手にする木刀風のステッキが、いかに周囲の人の神経にさわっているか、判然と悟ったのである。
 そういえば先日、散歩中の犬に吠えられとき、飼い主のオッサンが、
「棒を見ると咆えるんです」
 と、曖昧な笑顔を見せて言った言葉を思い出した。
 犬も、私を警戒していたのだ。
 そこで帰宅するや、ネットで、「どこから見てもステッキ」とわかるやつを探して購入した。
 私はステッキは何本か持ってはいるのだが、グリップが小さいため、握り込んでしまうと、散歩する人の遠目には木刀に見えるかもしれないと思い、グリップが傘の柄のように大きく湾曲したのを買ったのである。
 素手で歩けばよさそうなものだが、「ステッキをつきながら歩く」ということに、私は魅力を感じてるいるのだ。
 着流しか、水戸黄門の〝野袴〟で散歩したいのだが、
「そんな格好で杖ついて歩いたら、怪しい人とがいると警察に通報されるわよ」
 愚妻が頑として反対するのだ。
 まったく、早朝ウォーキングも、あれやこれやで楽ではないのだ。

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