歳時記

背水の陣

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 明後日は伊豆に出かける。
 日帰り温泉も、毎度だとくたびれるので、たまには泊まりがけである。
 といっても、仕事持参。
 友人が書く本のお手伝いもあり、いまも尻に火がついていて、カレンダーと睨めっこである。
 だが、目の前の仕事に追われてばかりいたのでは「尺取り虫」の生き方になってしまう。
 どうしても小説にしておきたいテーマがあり、昨日はアドバイスを受けに、都内の国文学者宅を訪ねた。
 私が若いころから何くれとなく助言をちょうだいしている学者だが、何しろ鋭い質問をされるので、図書館へ行ったり下調べも必死である。
 先生はノドの手術をされ、筆談である。
 ご高齢で、達筆。
 となれば当然、読みにくく、「解読」に神経をすり減らす。
 そして帰宅すると、筆談メモをパソコンで改めて書き起こし、アドバイスを再確認。
 そんなわけで、昨日はぐったりである。
 先生の入院中を含め、こうした作業を何度か繰り返している。
 いまさらあとには引けぬ。
 いつモノになるかはともかく、「背水の陣」である。
 スボラな私にとって幸いなことである。
 ここまで、このブログを書いて、「人間の意志」の強弱について、ふと思いがよぎる。
「意志が強い人間」とは、意志そのものが強いのではなく、いかにして「背水の陣」を敷くか、その方法を知っている者のことではないか。
 あるいは「背水の陣」を敷かざるを得ないように自分を追い込むことができる者のことではないか。
「だが」
 と一方で考える。
「背水の陣を敷いたからといって、必ず勝てるとは限らない」
 そんなことを朝っぱら考えていると、〆切原稿がちっとも進まないのである。
 パンでも食って、道場の仕事部屋へ出かけようと思ってるのだが、愚妻は二階の自室から下りてこない。
 まだ夢の中か。
「背水の陣」と無縁の人生がここにある。

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