歳時記

万年筆を買いに行く

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 昨日、無性に万年筆が欲しくなり、愚妻を伴ってデパートへ出かけた。
 万年筆が好きで、これまで色んなやつを買ったが、お気に入りはわずかに一本。40年ほど前、週刊誌記者として駆け出し当時に買ったモンブランだけだ。
 そのころ、故草柳大蔵氏の「物書きにとって万年筆は、武士の刀と同じ」という一文を読み、単純な私は、
(よし!)
 と大奮発して買い求めたものだ。
 私の万年筆好きはそれ以来ということになる。
 で、デパートの売り場。
 ペリカンが欲しかったのだが、太字のやつがない。
 すると女性店員が、
「お取り寄せになりますが」
 ノーテンキな笑顔に、私はたちまち不機嫌になる。
 万年筆は同じ品番であっても、一本一本書き味が違うので、実際に書いてみなければわからない。
 このビミョーな感覚の違いが万年筆の命なのだ。
 それを、
「お取り寄せになりますが」
 とは何事であるか。
 セーターのサイズ違いを取り寄せるのとは訳が違うのだ。
「何よ、万年筆一本でムクれて」
 と、愚妻はケチをつけるが、ムクれるのが正しいのだ。
 なぜなら、原稿はパソコンで書いているとはいえ、万年筆は私にとって、いまも「武士の刀」であり続けているからだ。

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