歳時記

還暦のお祝い

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 昨夜は、畏敬する大学の先輩、友人二人、そして某寺のご住職とで、私の還暦を祝ってくださった。
「おめでとう」
 と言って、みなさん、乾杯してくださったが、
 さて、この「おめでとう」は、どういう意味なのだろうか。
 還暦とは、干支(十干十二支)が一巡し、起算点となった年の干支にもどることで、このことから言えば、
「息災で還暦を迎えられてよかったね」
 という意味の「おめでとう」なのだろう。
 となれば「長生き」は「ハッピー」ということになる。
 もっと言えば、20歳より30歳のほうがよりハッピーとなり、50歳より60歳、60歳より70歳、70歳より80歳と、歳をとればとるほどハッピーということになる。
 しかるに、アンチエイジングがブームになり、
「あら、お若いこと」
 と言われて悦に入っている。
 矛盾ですな。
 アンチエイジングがいいのなら、還暦は「おめでとう」と言って乾杯するのは間違いということになる。
「では、献杯を致したいと存じます。このたびは不幸にも還暦をお迎えになり、ご愁傷さまです」
 そして一同、黙して献杯、というのが「正しい還暦」ということではないか。
「おい、どう思う」
 深夜に帰宅して愚妻を叩き起こし、私の疑念を問うと、
「うるさいわねぇ。どっちだっていいでしょ」
 大アクビすると、いま降りてきた階段を、ノロノロと自室へ引き返していった。
 強い。
 愚妻は強い。
 いかに人生に強いかということを、還暦を迎える歳になって初めて気がついた。
(私も、これからの人生、もっと図太く生きなければ)
 と、階段のきしむ音を聞きながら、我が身に言い聞かせたのだった。

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