悪夢にうなされた。
夢の内容は忘れだが、コワ~イものに追いかけられる夢だ。
よくあることなので、
(ハハーン、例によって悪夢がやってきたな)
と悪夢にうなされつつも、脳ミソの一部はしっかりと醒めている。
で、目がさめて、
(やっぱりなァ)
と得心するのである。
〆切りに追われると、悪がやってくるのだ。
6月初旬に1冊書き上げて原稿を渡し、次の〆切りが7下旬なのだが、ここ数日、所用で執筆できず、あせっている。
しかも編集者から、
「できるだけ早く」
という電話も来た。
(悪夢のヤツ、きっとやって来るぞ)
と、この時点で私はすでに思っている。
達観である。
達観すれば、「悪夢」が「友人」のように思えてきて、それはそれで楽しいものである。
まさに「心の持ちようで、苦は楽に転ずる」ということか。
「おい、マッサージ屋に予約だ!」
愚妻に命じる。
「どうしたの? 4日前に行ったばかりじゃないの?」
眉をつり上げて言う。
「バカ者。腹が減っては戦はできぬ、身体が凝(こ)っていては仕事はできぬ。知らんのか?」
「おいおい、どうしたんじゃ?」
87歳の爺さんが、自室からノロノロと出てきて言う。
「腹が減っては戦はできぬ、身体が凝っていては仕事はできぬ」
私が繰り返すと、87歳は大きくうなずいて、
「ホンマじゃのう。畑仕事も同じじゃ」
すると愚妻が、私を見て言った。
「腹が減っては戦はできぬ、身体が凝っていては主婦業はできぬ。これからは、自分のことは自分でやってくださいな」
現実は、悪夢よりはるかに怖いことを、私は身をもって知らされたのである。
〆切りと悪夢
投稿日: