歳時記

恐るべし、幼児の観察眼

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「背筋を伸ばせ! ほら、こういうふうにやるんだ!」
 道場でのこと。
 幼児たちを前に、直立不動になって私が見本を示しつつ、
「そして、アゴを引く!」
 すると、幼稚園の年長である女の子が、私の顔をまじまじと見ながら、
「館長」
「なんだ」
「館長のアゴ、二重アゴになっているよ」
 不意をつかれて、私は返す言葉を失った。
 会話術や交渉術の著書がある私が、返事に窮したのである。
 それにしても、二重アゴだなんて、よく見ているものではないか。
 恐るべし、幼児の観察眼。
(ならば)
 と、私は帰宅して愚妻に告げた。
「おい、今度、道場で幼稚園の子たちに〝きおつけ〟を教えてやってくれないか」
 すると愚妻はジロリと私をニラんで、
「何の魂胆?」
 恐るべし、愚妻の直感。

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