不景気の大合唱だが、我が家は違う。
なぜなら、我が家は一生を通して「好景気」がないのだから、必然的に「不景気」という概念はないということになる。
「どうだ、よろこべ」
愚妻に言うと、
「それもそうね」
と、珍しく賛意を表した。
人生に居直っているのだ。
女とは、なんと強いものではないか。
で、愚妻と二人して〝不景気ごっこ〟を始めた。
昼はたいてい外食するのだが、じっくりとメニューを眺めて、他店とくらべて、高いとか安いとかを話題にして楽しむのだ。
「50円、高いな」
「次からこの店、やめよう」
「ウム。不景気だからな」
クククク、と笑って楽しむ。
「あら、サラダ、注文しないの?」
「バカ者。不景気だぞ」
クククク、と笑う。
「トイレ、ちゃんと流したの?」
「バカ者。不景気だぞ」
不景気という言葉は、まさに〝葵の御紋〟で、
「ひかえおれ! 不景気の印籠が眼に入らんか!」
この一言で、人生はスイスイと渡っていけるのである。
不景気を楽しむ
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