九十九里の白子は、テニスのメッカとして知られる一方、温泉の町でもある。
それが気に入って、この地に仕事部屋を借りたわけだ。
クルマで十分ほど行けば温泉健康ランドがあるし、あちこちの温泉旅館で日帰り入浴をやっている。
で、昨日午後は、仕事部屋から歩いて五分ほどのところにある温泉旅館へ出かけた。
展望浴場から、サーファーたちの波乗り姿が見える。
その上空を、エンジン付のモーターパラグライダーがのどかに飛んでいる。
徹夜明けであったが、湯船に手足を伸ばしながら眺める景色は、なんとも気分がいいものであった。
と、そのときである。
湯船から出た三十前後の若いパパが、
「洗面器を片付けなさい。ほら、椅子も」
と、幼い我が子に毅然と命じたのだ。
幼児も、
「うん」
と素直に答えて片付け始めた。
この光景を見ていて、日本の若いパパも捨てたもんじゃないと見直した。
(こんなパパに育てられる子供は幸せだろうな)
とも思った。
若いパパは私に軽く会釈して風呂場を出て行った。
私は展望の窓に目をもどす。
ついさっきまで、いい眺めだと思っていたサーファーやモーターグライダーが、何やら急に色あせて見えてきた。
いま風呂から出て行った若い親子の〝景色〟のほうが、私には何倍も何十倍も素晴らしく見えたのである。
日帰り入浴の〝若いパパ〟
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