歳時記

「人生苦」と「四元凶」

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《のにのに病》というのがあるのだそうだ。
「親切にしてあげたのに」
「めんどう見てやったのに」
 という《のに》である。
「やなきゃ、やらなきゃ」が《きゃあきゃあ病》で、「やらねば、やらねば」が《ねばねば病》。
 これに《のにのに病》を加えて、自分を苦しめる三元凶ということになろうか。
 いや、《けどけど病》もある。
「やろうと思ったけど」「行こうと思ったけど」の《けど》だ。
 これを加えて四元凶ということにしよう。
「親切にしてあげたのに」という《のにのに病》に罹(かか)ると、絶えず不満にさいなまれる。
「やらなきゃ」の《きゃあきゃあ病》と、「やならねば」の《ねばねば病》に罹ると、いつも何かに追い立てられているようで、気持ちが落ち着くときがない。
 そして「やろうと思ったけど」の《けどけど病》に罹ると、いつも自己嫌悪に陥ってしまう。
 気持ちか落ち着かず、絶えず不満にさいなまれ、しかも自己嫌悪に陥るとなると、人生、悲惨だろう。
 ところが、そうと知りつつ、仕事に雑用に人間関係に追われ、「のに」「きゃあ」「ねば」「けど」の四元凶の日々になってしまう。
 では、どうすれば四元凶から解き放たれるか。
 私の場合は、
「水は低きに流れる」
 と自分に言い聞かせる。
 水は放っておいても低い方へ流れ行く。
 いや、低い方へしか流れないという「現実」を甘受するのだ。
 裏切られることもあれば、失敗もするだろ。
 完璧をめざしたところで所詮、無理な話。
「やらないよりはいい」
 と、ベストでなくベターで物事を考えるのである。
 こんな私のことを、愚妻は、
「いい性格だわね」
 と皮肉を言う。
 バチ当たりもここに極まれりで、
「バカ者! 四元凶に苦しむことになるぞ」
 憐憫の心から私が注意すると、
「フン」
 と鼻で笑って、
「あなたに苦しめられることを思えば、何だって平気だわ」
 平然と言ってのけた。
 どうやら愚妻に対してだけは、四元凶も避けて通るようである。
 

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