朝起きたら、声が出なくなっていた。
風邪だろうか。
いや、冬場にホテルに泊まると、部屋が暖房で乾燥しているため、よくノドをやられる。
網走のホテルへ泊まってからノドの調子が悪かったから、そのせいかもしれないが、明日は中学校の卒業式に招かれている。
もし風邪だったら、みんなに迷惑をかける。
で、私は欠席することにして、それを伝えようと学校に電話した。
電話に出た女性教諭の声が、にわかに緊張する。
私が低く、かすれた声で、
「もしもし……」
とやるものだから、妙な電話と勘違いされたかもしれない。
私はあわてた。
(誤解だ、誤解!)
弁解がましく早口で話そうとするものだから、よけい言葉が出てこない。
女性教諭の声がますます固くなって、
「あのう、いま教頭が席を外しておりまして……」
ま、そんなこんなで、やっとこさ事情を説明すると、女性教諭は明るい声で、
「承知しました、お大事に!」
以前、私は終電近い電車で痴漢を見つけ、
「オラッ!」
と注意したことがあるが、このときも乗客に誤解され、私がカラんでいるように見え、遠巻きにされてしまった。
「いや、あいつが痴漢で……」
と〝弁解〟するが、誰も聞く耳はもたなかった。そのあいだに電車はホームに着き、痴漢はそそくさと逃げていった。
私はめったに電車には乗らないのだが、混雑した電車に乗るときは、
(痴漢と間違われたらどうしよう)
と、ことのほか緊張するのである。
声がかすれて「誤解だ、誤解!」
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