歳時記

失敗は〝対比効果〟で切り抜けよ

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 心理術に「対比効果」というのがある。
 悪条件を相手に吞ませるテクニックである。
 たとえば、
「こらッ! 命と腕とどっちや!」
 命を取られるのと、腕を落とすのとどっちがいいか――と迫られれば、誰しも「腕!」と答えるだろう。
 命を取られることにくらべれば、腕のほうがいいに決まっている。
(ああ、腕ですんでよかった)
 と安堵さえする。
 これが対比効果で、
「会社を辞めてもらうか、あるいは給料をカットするか」
 というのも同じで、私たちは対比効果を無意識に使っている。
 ただし対比効果は、使い方――つまり対比の順序を間違えると逆効果になるから要注意だ。
 たとえば、恐喝がわかりやすい。
「てめえ、ブッ殺すぞ! いやなら金を出せ!」
 と脅されれば、
(お金ですむなら……)
 と、積極的にお金を出そうとする。
《最悪》をバーンとカマされ、そのあと《やや最悪》を提示されるから、
(ラッキー!)
 と感じるのだ。
 ところが、
「てめえ、金を出せ! いやならブッ殺すぞ!」
 と逆をやったらどうか。
 金を出したくないところへもってきて、さらに「殺す」と精神的に追い打ちをかけられることになり、脅された相手は警察に駆け込むだろう。
《やや最悪》から《最悪》へ――。対比効果の逆作用である。
 同様に、人件費削減のため、
「会社を辞めてもらうか、あるいは給料をカットするか」
 と言うべきところを逆に、
「給料をカットするか、会社を辞めるか」
 と言ったのでは、《やや最悪》から《最悪》と精神的に追い打ちをかけることになり、社員はお先は真っ暗。
(このまま会社にいても……)
 人件費削減のつもりが、退職に追いやってしまうことになる。
 この手法を用いれば、たとえば仕事でミスしたことを上司に報告するときは、
「申しわけありません。とんでもない失敗をしてしまいました」
 深刻な顔で最初にカマせばよい。
 上司はその瞬間、〝最悪の事態〟が脳裡をかすめ、息を呑んで部下の報告を待つ。
 そこで、やおら部下は、
「今月の納品量を2割落とすと言われてしまいました。申しわけありません」
「なんだ、そんなことか。来月以降、巻き返せばいい」
 上司は安堵するという次第。
 とろが多くの人は、ミスを咎められたくないばっかりに、この逆をやってしまう。
「たいしたことじゃないんですが、今月の納品量を2割落とすと言われましたが、来月から巻き返しにかかりますから、年間の総量で見ればどってことないと思います」
「バカ者! 巻き返そうが巻き返すまいが、納品量が落ちたことは確実にマイナスじゃないか!」
 特大のカミナリが落ちることになる。
「たいしたことじゃないんですが」
 と枕に振り、ミスを過小に見せようとするのは〝逆対比効果〟になってしまうのである。

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