歳時記

先輩が説いた「運気の話」

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 昨夜、拓大の先輩と一杯やった。
 一杯やったといっても、酒をやめた私はウーロン茶。先輩は60歳半ばにして、斗酒なお辞さす。グイグイやる。
 先輩は表社会にもウラ社会にも通じた傑物で、是々非々。思ったことは、相手が誰であれ、歯に衣着せずズバリと言い切る。それがまた正鵠を得ているのである。
 その先輩が、こんなことを言った。
「いいか、向谷。俺のような鬱陶(うっとう)しい人間に会うのがイヤになったときは、自分の運気が落ち始めていると思え」
 つまり、運気が上昇しているときは、口やかましい人間や、思ったことをズバズバ言う人間に会っても、
(なに言ってやがる)
 と、押し返す気力があるのだそうだ。
 むしろ、口やかましく言う人間に会うことによって、自分の気力を無意識に奮い立たせていると言ってもよい。
 ところが、運気が下がって気力が萎(な)えてくると、口やかましい人間に対して押し返すことができなくなるため、ますます落ち込む。だから、無意識に敬遠するようになると、先輩は言うのである。
 なるほど、一理ある。
 気力に欠けるときは、会合やパーティーには行きたくないものだ。
 深夜、先輩と別れ、帰宅のタクシーのなかで、
(今夜はいい話を聞いた)
 と感心しつつ、ふと疑念がよぎった。
(ちょっと待てよ。ひょっとして先輩は、俺をシカトするな、ということを言葉をかえて言ったんじゃないか?)
 ウーム、あり得る。
 あり得るが、しかし、先輩の言ったことも一理ある。
 たとえ我田引水であろうとも、決してそうとは思わせない。しかも、相手を言葉で縛る。こういうのを「究極の話術」と言うのだろう。
 ますます感心したのである。
 そして、今朝。
 先輩に電話して、昨夜、ご馳走になったお礼を言うと、
「おう! また近いうちに一杯やろうぜ!」
 耳の響く豪快な声で、次回のお誘いである。
「オス!」
 私も元気よく返事する。
 どうやら私の運気は、まだ昇り調子のようである。
 

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