歳時記

高速道路で「この道一筋」の意味を考えた

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 ここ一週間、風邪で苦しんだ。
 下痢である。
 尾籠な話で恐縮だが、いま流行の風邪は胃腸にくるそうだ。
 で、先週の金曜日。医者で薬を処方してもらったのだが、3日たった月曜日になっても下痢が治らず、ならば逆療法で勝負しようと、焼き肉を腹一杯食べた。
 結果はどうか。
 死ぬほど苦しんだ。
 それまで〝特急〟だった下痢が〝新幹線〟になってしまったのである。
 しかし、夕方、都内で所用がある。
 キャンセルしようかと思ったが、小一時間ですむ用事だ。頭を下げるのも癪なので、下痢止めを呑んで、自宅のある千葉県佐倉市から車を運転して出かけたのである。
 方向音痴の私にとって、頼りはいつもカーナビ。縮尺は50m~200mの詳細サイズで見るのだが、このときどういう操作をしたのか、画面の地図がうんと小さくなって、千葉県から東京都までが画面に映ったのである。
 驚いた。
 何に驚いたかと言うと、私の車が東京湾に向かっていたからである。驚くほうが間違いで、考えてみれば、私が高速に乗った四街道ICから道路は南下し、千葉北ICを過ぎたあたりから東京方向(西)に向かう。高速道路は直線道ではないのだ。
 だから東京湾に向かっていて何の不思議でもないのだが、頭の中の地図では、佐倉市から一直線に東京――西方向に向かって走っている。カーナビは50m~200mの設定で目前しか映らないのだから当然だろう。私の感覚では、東京湾など方向違い。「思いこみ」とは何とも怖いものであると再認識した次第である。
 そんなことから、ふと人生も似たようなものだと思った。
 自分が思い描く道筋と、現実は必ずしも一致しないのである。東京(目的)へ向かってひた走っているものとばかり思っていたら、東京とは方向違いに走っていて、驚くこともあるのだ。
 ただし――ここが肝心なことだが――私が走った高速道路のように、道路が曲がっているため、途中は方向が目的地と違ってはいても、走り続ければ、やがて目的地につく。
 ところが、
「あっ、方向がちがう」
 と、あわててルートを変えるとどうなるか。
 せっかく順調に目的地に近づいているのに、道を外すことになる。
 人生に夢を描き、目的を持ち、それに邁進する。自分の頭の中における日々は、夢や目的に一直線に近づいていくように思っている。
 ところが現実は、紆余曲折して、しかも山あり谷あり。
「あれッ。この道は違ってるんじゃないか?」
 と迷いが生じることになる。
 このとき、どうするかで、人生は決まる。
 人生の敗者は、あわてて道を降りる。
 「この道一筋」とは、単に一つことを継続するという意味ではなく、選び取った道に迷いを挟まないことだと、私はこの日、運転しながら思ったというわけである。
 ついでながら、都内までの行き帰り、それぞれサービスエリアで用を足し、なんとか〝無事〟に帰宅することができた。
 

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