歳時記

新成人に贈る人生訓

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 毎月10日は、おふくろの月命日(月忌)で、今日も9時に延覚寺の住職さんがお参りにいらした。
 私も坊さんであるが、私のお経では87歳の親父は納得がいかないのだろう。せっかく「映芳(えいほう)」という有り難い法名で呼んでいるのに、愚妻と同じバチ当たりではないか。
 これが愚妻であれば厳しく叱責するところだが、相手が87歳の映芳爺さんとあれば、そうもいくまい。高齢に免じて大目に見ることにしよう。
 で、お経のあと住職さんを外へ見送りに出ると、艶(あで)やかな振り袖姿のお嬢さんが美容院から出てきた。拙宅のお隣さんが美容院で、今朝は未明の3時から着付けの予約が入るなど、てんてこ舞いだと言っていた。
 しかしながら、艶やかも結構だが、諸般の事情から振り袖を着ることのできない新成人もいるのだろうと思うと、
(なんだかなァ)
 という気持ちになってくる。
 そんなことを思いながら家に入ると、かつて私が担当していた保護観察少年の母親から携帯に電話があった。
「今日、ウチの子の成人式なのでスーツ姿を見てやってください」
 とのことで、近所のファミレスで会った。
 ネクタイを締めたスーツ姿は、なかなか立派なものである。
 笑顔で将来の抱負を語る彼の顔を見ていると、
(人間は変わっていくんだな)
 と、うれしく思わずにはいられなかった。
「頑張れよ」
 と声援を送りつつも、
(努力はもちろん大事だが、人生、思いどおりにはいかないんだよ)
 と言いたい気持ちもある。
 ただ、「思いどおりにいかない」とは、否定的なニュアンスだけでなく、思いもかけない僥倖(ぎょうこう)にめぐりあうということでもある。
 だから、仕事や人生が意に染(そ)もうが染むまいが、腐ってはいけない。笑顔でじっと待っていれば、誰しも「思いもかけない僥倖」は必ずめぐってくるものだから。
『大きい薬缶(やかん)は沸きが遅い』
 ということわざがある。
「度量の大きいすぐれた人物は、ふつうの人間よりも大成するのに時間がかかる」
 という意味だ。
 私のように還暦を迎えてなお、〝沸きの遅い人間〟もいるが、気持ちの持ちよう一つで楽しく人生を送っている。
 案ずることはないのだ。
「人生、あせるな、悲観するな」
 そんな言葉を、新成人の彼に贈った。

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