歳時記

テレビのリモコン

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昨日は、近所のかかりつけ医であるクリニックへ行った。
院長が大学病院を紹介してくれたので、病院からの手術報告(たぶん)の封書を届けたのである。

大学病院を紹介された初診のとき、病院の若い担当医は院長の後輩とかで、
「お話は先輩からうかがっております」
立ちあがって自己紹介するなど丁重に対応していただいたが、
(医者の世界も体育会的なんだな)
と思ったものだ。

旧式人間の私は、こういうのは嫌いではない。

で、昨日のクリニック。
「まだ腹部が痛い」
院長に言うと、
「あなたね、退院してまだ二日目ですよ」
あきれ顔で言ってから、
「70歳でそれだけお元気なのはたいしたものです」

ホメられたような、たしなめられたような気分だったが、「70歳でそれだけ」という一語は、いささか引っかからないでもなかった。
(そういう年齢なのか)
認識をあらたにした次第。

自宅の居間でテレビを観るとき、頭に枕を当てて仰向けになる。
そのほうが腹部が楽だからだ。

だが、痛む腹部をさらすというのは無防備で落ちつかないものだ。
そう思っていた昨日昼すぎのこと。

「ちょっと、買い物に行ってくるわ」
愚妻が立ちあがると、
「リモコンを取るのが大変でしょ」
言うなり、私の腹の上にリモコンをポンと置いたのである。

「痛テテテテ! バカ者!」
愚妻は親切のつもりだろうが、じつに愚かなことをするのだ。

「おまえの欠点は思慮に欠けることだ!」
説教を始めると、
「そんなところに寝ているのが悪いんでしょ!」
逆ギレ。

私が悪いということにされてしまった。
危なくてしょうがないので、私は腹部をガードしつつテレビを観ているのだ。

仏教では「苦しみを通して見えてくる世界がある」と説き、「苦」を世俗の価値観で見ることを戒めるが、手術によって私はいろんな世界を見ている。

ありがたいことと感謝しつつも、
「だけど、手術はもういいな」
どこまでも世俗の価値観から抜け出せない自分に気づくのである。

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