歳時記

昔、仕立てた礼服

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今朝は、某家の葬儀に愚妻と出かけた。
私は会葬者としてはあまり顔を出さない。
人間は誰でも死ぬ。
必然の出来事にわざわざ行くことはないと、ヘソ曲がりの私は思ってしまうのだ。

で、ひさしぶりに黒い礼服を着た。
ウェストが、ややきつ目である。

「あれ? 新調しなかったか?」
愚妻に問うと、
「あれは夏物でしょ」
「そうか。じゃ、スリーシーズン用を新調しなくてはならなんな」
「ちょっと、その服は高かったのよ!」

愚妻が怒る。

上着を着てみて思い出した。
礼服は剣襟だが、「礼服であって礼服でないのがカッコいいのだ」と言って剣襟にせず、ノーマルなスーツに仕立てたことを思い出した。
むろん、ベンツは切らない。

なぜそうしたかと言うと、某氏がこうアドバイスしてくれたのだ。

「冠婚葬祭はみんなが礼服を着るだろう? だから高価なものと安っぽいものとはすぐにわかる。いいものを着るんだぞ」

ならば、せっかく高い礼服を仕立てるなら形も変えてやれと思い、あえて剣襟にしなかったという次第。

いま思えば、どこがカッコいいのかアホらしい限りだが、そういう心意気の時代もあったということか。

時代は流れ、馬齢を重ね、人間は愚かであった自分に気づいていくのだろう。
そんなことを思い出しながら、読経に耳を傾けていたのである。

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